きっともう好きじゃない。


疲労を持ち越して、また抱えて。

まおちゃんが以前と変わらずにわたしに接することも、辛かった。

変わらず、というと少し違うのかもしれない。

ぎこちなさは目に見えていたから。


気にしていないわけじゃないと思うけど、いつも通りでいようとしていることが見え見えで、わたしの方からまおちゃんを避けた。


きっかけから1ヶ月が過ぎて、2月に入る頃。

まおちゃんが風邪で学校を休んだ。

男子やあの女子3人以外のクラスメイトはもう飽きてしまったようで、わたしのことは気にしていない。


ただ、あの3人だけがずっと、わたしに不満を持っていたらしい。

いつの間にか机に入っていたメモ書きには放課後に残るようにと書かれていて、それに従う必要はないと思っていたのだけど、無視をして帰ろうとしたところで捕まった。

素直に残らなかったことが仇になったようで、ひどく憤慨する3人に連れて行かれたのは空き教室。


何をされるのかなんて、見当もつかない。

ただ、3対1という不利な状況に、逃げるべきだってことだけはわかっていた。


「須藤くんのこと、まだ好きなの?」


「え……?」


まるで、この1ヶ月の間にまおちゃんへの気持ちを塗り替えたかを尋ねるような物言いに、呆けた声を出す。

苛立ったように同じ質問を投げかけられて、わたしはひとつ頷いた。


「ああ、そう……」


なら仕方ないね、と誰かが言った。

なにが、と問う間もなく、すぐそばの椅子を蹴り飛ばすから、避けることができなかった。

突然のことに驚いてよろめいた隙に、また別の椅子をぶつけられる。


人から与えられる痛みなんて、これまで知らなかった。

痛みの逃がし方も、避け方もわからない。

決して直接は手を出さないけど、倒れた椅子や机の角が体に当たるたびに、小さく悲鳴を上げる。

声がだんだんと大きくなっていくと、ひとりに口を塞がれた。

素手ではなくてタオルで鼻と口の両方を覆って押さえ付けられるか、ろくに息もできない。


「っ、ま……」


まおちゃん。

喉の奥まで名前が出てきたのは、まおちゃんひとりだけ。

でも、呼んじゃいけない。

まおちゃんには届かないし、3人を逆上させてしまう。


もがくのも止めて抵抗をせずにいると、しばらくは続いていた暴力も止んだ。

冷たい声で『懲りた?』と言われたから、その意味も下さないままに首を横に振る。


懲りたかというのが、まおちゃんへの気持ちを捨てるか、という意味なら、絶対に頷かない。

廊下の向こうから話し声が聞こえて去って行った3人に安堵したのはそのときだけで、翌日からは人の目を盗んで小さな嫌がらせを受けることになる。

まおちゃんには、言えなかった。

腕にできた痣は、袖を捲らないと見えない。


まおちゃんに助けてって言ったら、きっと助けてくれる。

だけど、まおちゃんを巻き込みたくなかった。


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