きっともう好きじゃない。


必死に守ろうとした恋。

守りたかった、恋。


何に変えても、何にも変えられなくても、守っていたかった恋だけど、少しずつ確かに綻びていったんだと思う。

消えかけた痣がまた濃くなった日、帰り道の途中にまおちゃんがいた。

偶然そこにいたというよりは、誰かを待っているような体で。


誰かが、わたしなことくらい、わかるんだけど。


「和華……」


まおちゃんの顔を見ていられなくて、俯く。

その視界の中で、まおちゃんがわたしの足元にしゃがんだ。


何をしようとしているのか気付いたけど、もう止めない。

前よりも長くしたスカートの裾をめくって、まおちゃんが息をのむ。


「これ……誰に」


たとえば顔とか、手のひらとか、ふくらはぎには傷をつけられない。

だけどどうしても、意図せずに膝の裏や膝上ギリギリに痣ができてしまうことはあって、スカートを伸ばすことで誤魔化していた。


足に手を添えたまま、まおちゃんがわたしを見上げる。

下から見上げられたら、逃げられないんだよ。


ぽたっと滴った涙が、まおちゃんの頬に落ちた。


「まおちゃん」


頬だけじゃない。

まおちゃんの瞼のくぼみにちょうど落ちた雫を見て、まるでまおちゃんが泣いているみたいだって思った。


「わたしね」


たった一言でいい。

まおちゃんを深く傷付けてしまうかもしれない。

わたしが深く傷付いてしまうかもしれない。

嘘偽りのない心だとは言いきれないことを、口にしようとしてる。


「もう、まおちゃんのこと好きでいたくない」


嫌いになりたいって言えなかった。

本当は嫌いになりたいって言うつもりだったんだけど、違う言葉になった。

口をついて出たそれは、思いのほかすとんと胸に落ちる。


そっか。

わたしもう、まおちゃんのことを。

好きでいたくないんだ。

そうすれば、あの3人にもういいよって言ってもらえる。


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