きっともう好きじゃない。
落とした恋
◇
まおちゃんと顔を合わせることもメッセージが届くこともなく、迎えたバレンタイン。
朝からどこかソワソワしている薫に今渡すのは野暮な気がして、帰ってから渡すことにした。
仕事のお父さんと、昼まで用事のあるお母さんと、学校の薫。
みんなを見送って、リビングでテレビゲームのコントローラーを握る。
痕跡を残さなければ勝手に使ってもバレないと思ったけど、薫は目敏いからどこで気付くかわからない。
ダメ元でさっき薫が出かける間際に頼んでみたら、好きにしていいよ、と言われた。
セーブデータを上書きしなければ、としっかり念を押されたから、メインストーリーではなくてミニゲームを片っ端からやっていく。
何かに熱中していたかった。
寝ても覚めても、頭の中はまおちゃんでいっぱい。
追い払おうとすると余計のその存在がちらつくから、こうして気を逸らすことに方向転換をした。
ぶちぶちと小言を零しがちな薫とは違って、黙々とボタンを押す。
そのうちに太陽が真上に近付いてきたようで、朝イチでお母さんが開けたカーテンを引っ張る。
閉め切ってもわたしの部屋よりは随分と明るくて、落ち着かない。
ゲームにも飽きてきたところで朝ご飯の残りで簡単に昼食を済ませる。
お母さんがいつ帰ってくるのかはわからないけど、ここにいたらきっとまおちゃんへのチョコレートの行方を聞かれる。
渡した、と嘘でも言えばいいんだけど、経由してまおちゃんのお母さんに伝わってしまったら、それは少し困るから。
部屋に戻ると、ベッドに置きっぱなしのスマホが通知を報せてチカチカと点滅していた。