きっともう好きじゃない。
【⠀篠田さん 】
見覚えのない字面に首を傾げようとした途中で思い出して、中途半端に首を斜めに横向けたまま、メッセージを開く。
こんにちは、の後に『須藤と何かあった?』と届いている。
何かあった? という問いを深く考えてはいけないような気がする。
カマかけているのとは少し違う感じだけど、学校でまおちゃんに絡んでいったわけでもないんだろうから。
昨日の様子を見ていて、面白がっている風ではなかったけど、普段わたしよりもまおちゃんと接触する機会の方が多い篠田さんにはあまり喋りたくない。
『何もないです』と返すと、昼休みはとうに終わっているはずなのに、速攻で返事が来る。
『そっか。』
『俺、今日そっち行くから会えない?』
「……は?」
風が窓を叩く音の合間に、喉から低い声が這い出る。
軟派すぎやしないか、この人。
あまりにも脈絡がない上に、意図がわからない。
『会えないです』
『今、学校?』
『じゃないですけど』
秒で返ってくるメッセージに応戦したところで、ハッと気付いた。
平日の真昼間、この返し方は普通しない。
送信を取り消せるはずもなく、やっぱり数えるほどの時間で返信が届いた。
『着く前にまたメッセ送るな』
勝手に来てもいいけど、わたしは行かない。
絶対に、行かない。
来られても待ちぼうけ食らって無駄足なだけですよ、と煽るような文章を返したけど、それきり返事はなかった。
篠田さんはたぶん部活がある。
終わってから電車に乗るとしたら、昨日わたしと薫が乗った時間か、はやくても一本前だ。
最寄りに着いたとき、既に辺りは暗かった。
寒空の下で待たれても困る。
昨日、どこから来たのかって聞かれたときに素直に答えた薫の口を塞いでおけばよかった。
そうしなくたって、まおちゃんがいるから知っていたのかもしれないけど。
最終手段、というかひとつの手としては、駅まで薫を連れていく。
たぶん渋るだろうし、そんなの姉ちゃんがはっきり来るなって言えばよかっただろとか何とか文句を垂れる姿が目に浮かぶ。
それでも頼み込めばついて来てくれる、はず。
絶対に行かないと決めたはずなのに、どうにかひとりで会わずに済む方法を探し始めている自分に気付いて、ため息が零れた。
返信のないトークルームに『できれば来ないでください』と正直なところを伝えておいた。