きっともう好きじゃない。


エレベーターのそばに背中をつけて、わたしのスマホを我がもの顔で扱う薫のそばに行くと、慌てた様子もないけど画面を斜めにして隠す。


「またなんかしてた?」


「またって……」


言いかけて、心当たりがあったらしい。

バツが悪そうに視線を逸らして、何の操作もせずにわたしにスマホを渡す。

画面はゲームのログイン画面で、少しでも昨日みたいなことを疑ってしまったことが申し訳なくなった。


わたしが家を出た時点でエレベーターのボタンを押してくれていたようで、ほどなくしてやってきた四角い箱に乗ったあと、スマホを薫に渡す。

なかなか受け取ろうとしないから、胸に押し付けてパッと手を離すと、慌てて掴んでいた。


「あっぶな」


「持ってていいよ。篠田さんからメッセージ来たら返してね」


「……うん」


小さく頷いた薫が珍しくしおらしくて、笑ってしまいそうなるのを堪える。

マンションの敷地を出て駅に向かう道の間にも、わたしに車道側を歩かせて自分は肩を歩道側の塀に掠めながらスマホを触っている。

やっぱり渡すべきじゃなかったかな。

危ないよって言っても聞かないし。

転けられて困るのはたぶんわたし。

スマホを庇ってくれたらいいんだけど、いや、もしそうなったらスマホより薫の方が大事だ。


暗い夜道を歩くのは少しだけ不安。

登下校は明るいうちに済ませた記憶しかないから。

まおちゃんや薫の方がこの暗さには慣れているんだろうな。


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