私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~
六月に入り、ニャーソンさんの企画も大詰めだ。

「チー、応接室、準備しといて。
ニャーソンの新しい広告担当が挨拶に来るって」

「はい」

指示されたとおり応接室の中を確認し、お茶の準備をする。
普通は途中で担当が代わったりなんてことはないのだろうが、前の担当は階段から落ちて足を骨折。
現在は入院中だから仕方ない。

「京屋部長。
新しい方はまだ、試作品召し上がってないですよね?
準備した方が?」

「あー、チーは気が利くなー。
開発部にあるんだったらお出ししろ」

「はい」

昨日、社内試食会をしたばかりだから、もしかしたら残っているかもしれない。
大急ぎで向かった開発部には思った通り試作品が残っていた。
今日のおやつのはずだったのに、って恨まれちゃったけど。

営業部に戻ると、ちょうど先方が到着したところだった。
お茶と一緒に試作品もお盆にのせて、応接室に行く。

「失礼します」

中に入って顔を上げた途端、固まった。

「……チー?」

懐かしい声が、私を呼ぶ。

「……駿(しゅん)」

そこにいたのは、私が昔――付き合っていた男、だった。
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