きみのひだまりになりたい
どこか儚げに眉尻を下げ、新川さんは耳横から垂れてきた茶色い髪をひと束、さらりと耳にかけた。そこはかとなくフローラルな香りがした。白く、繊細な、夏の始まりの香り。彼女にぴったりだなと思った。
この出会いは、偶然だった。必然に生まれ変わらせたのは、ほかでもない、木本くん自身だよ。
幸せだね。幸せだよ。ここにいる誰もが、そう、信じているよ。
「朱里、また会おうぜ。連絡したら返信しろよ? もう、無視すんなよな」
「ん。送るよ。ちゃんと、送る」
「田中さん、朱里のことよろしくお願いします」
「またどこかでお会いできたら、木本くんとのお話、たくさん聞かせてくださいね」
そう言ってふたりは名残惜しみながら背を向けた。鳥居を過ぎ、肩を並べて去っていく。さみしさを覚えた。祭りばやしが遠のいていく。
メインイベントが無事に幕を下ろしたのを境に、屋台と屋台の間を埋め尽くしていた人の山が、少しずつなくなりかけていた。そのことに気がついたのは、新川さんと眞田くんの背中が見えなくなったあとだった。
夏祭りが終わろうとしている。ふたりの夜にさよならするのも近い。さみしさが膨らんだ。
「ありがと、な」
ぽつりと、木本くんは照れくさそうにつぶやいた。
「一緒にいてくれて、すげぇ心強かった」
「うん」
「あの、付き合ってるってうそ、さ。おれのため、だったんだろ……? 最初びっくりしたけど、あのうそがあったから向き合えたんだと、思う」
「……う、ん」
「助かった。ほんと、ありがとう」
うん。うん。届いているよ。不器用なりに素直な言葉。もらってもいいのかな。なんだかくすぐったいね。ありがとう。ごめんね。ありがとう。