きみのひだまりになりたい


わたし、今、どんな顔をしているんだろう。やばいなあ。たぶん、けっこう、やばいと思う。

顔を見られたくない。でも、木本くんが今どんな顔をしているのかは、とっても気になる。でもでも。わたしの顔を見て、木本くんがどんな顔をするのか想像できるから、やっぱり見せないでおく。




「結局、夏祭り、あんまり楽しめなかったな。わるい」




あごを引き、前髪で顔を翳らせながら、頭を思いっきり左右に振り回した。その食い気味な反応と勢いに、くつくつと喉仏が鳴る。また、ありがとな、と伝えられ、また頭を振った。


お世辞じゃない。わるいだなんて言って、勝手にやな思い出にしちゃわないで。楽しかった。ぜんぶ、ぜんぶ、すてきな思い出。わたしの願いは叶ったよ。




「また、来ようぜ。今度はアメリカンドッグ以外もうまいもん食って、ずっと楽しもう」




握りしめて離さない、手と手。冷たい感触はいつの間にか融解し、じわりと熱を広げている。その熱はわたしのだ。わたしばかり、熱いのだ。

木本くんの小指の先が、わたしの小指のラインを撫でた。二度目の、約束。この夜が明けても、次がある。期待がこみ上げては気持ちがゆるみ、手もゆるむ。


けれどもそれは、今夜を終わりにしよう、という合図でもあることを、わたしは知っている。この手を離すときが来た。離れがたいけれど、離さなくちゃ。つながりを求めた、わたしのほうから。


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