きみのひだまりになりたい


見知らぬ人たちが通り過ぎ、鳥居の向こう側へ消えていく。うちわであおいで。舌を青く色づけて。ソースと青のりの残ったプラスチックのパックと割り箸をゴミ箱に捨てて。ヨーヨーをぶら下げて。アニメのキャラクターにラッピングされたわたあめを抱えて。大人も、子どもも、ほくほくと満足げな様子で。


つと思い出した。そうだ、焼きそば。東屋に置いてきてしまった。あのまま放置してはおけない。さよならするにはちょうどいい口実だ。

すっ、とのどに新鮮な空気を送りこんだ。




「や、焼きそば、を」


「え? ……あっ」


「忘れてた、ね。わたし、東屋に、寄ってくる」


「じゃあ、おれも」


「う、ううん。大丈夫。列に並んでくれた、でしょ。だ、から、ここは、わたしに行かせて?」




ひと息で言ってのけた。思ったよりも声が続いてほっとした。一瞬にしてのどが干からびた。するりと一気に手をほどいた。最後までかたくなに顔を上げなかった。熱は冷めやらなかった。


即座に踵を返した。人の流れに逆らい、石畳の道を駆けていく。足がおぼつかない。下駄のせいだ。走りづらくて、うまく進めない。体力を根こそぎ持っていかれる。

息が上がる。暑さがまとわりつく。呼吸器官が詰まる。皮膚が焼ける。関節が痛む。脳が酸素を欲する。ドックン、ドックン、と心臓がうるさく騒ぎ立てる。



神社の脇道にそれた先にある階段に差しかかったころには、雪洞の明かりはすでになかった。暗闇に目を慣らせながら、階段をのぼりきった。

東屋はしんと静まり返っていた。いつもの、見慣れた光景だ。中央に立つ丸テーブルに取り残された、焼きそばのパックがひとつ。それだけが異質だった。


< 106 / 158 >

この作品をシェア

pagetop