きみのひだまりになりたい
傷つけたくない。
やさしくしたい。
そう在りたいんだよ。
本降りになってきた。名ばかりの屋根は、雨粒の大半を見送る。自業自得だと言わんばかりに容赦なく雨に打たれた。
がんばってセットした髪の毛は、ぺちゃんこにつぶれた。お気に入りの浴衣は雨を吸収して、ぺたりと体に貼りつく。空気も布も冷えているのに、わたしだけは熱せられている。
意識がもうろうとしてきた。雨に当たる感触を失っていく。そろそろ限界かもしれない。
――タン、タン、とかすかに足音が響いた。
空耳かと疑った。熱が生み出した幻聴か、と。けれど、その音はたしかに、敷石の地面を踏みしめる音で。着実にここに近づいてきていた。
一体、誰が。まさか。いや。そんなわけ。
唐突に静寂を切り裂かれ、ひどく錯乱してしまう。頭の中で、猫顔のきみが笑う。うつらうつらとした半開きの眼を、でき得る限り凝らした。
階段に、光が点す。黄色い光のまあるい円の中に、スニーカーの影がうごめいた。わたしが視界を上にずらしていくと、光の及ぶ範囲も東屋の内部にピントを寄せてくる。
ドックン。
ドックン。
ドックン……!
「っ! た、なか……!?」
見回りと記された腕章が、真っ先に目に留まった。落胆と安堵が同時に湧いた。乾いた笑みがもれる。
なんだ、二階堂先生か……。
さすがに今日はスーツではなく、首元まで締まったポロシャツを着ていた。七三分けの髪型は崩れ、暑苦しい声は乱れている。先生らしくない。なぜだろう。なぜ、ここに来たんだろう。懐中電灯を持って、最後のパトロールでもしていたのだろうか。
……わざわざ、こんな、東屋まで?