きみのひだまりになりたい
「いくら待ってもこねぇと思ったら……、なに、してんだよ。アホ」
「……き、もと……く……」
つっけんどんな態度はやるせなく、不自然さをかもし出している。泣いているふうにさえ見える。頬に流れる雫は、雨なのか、涙なのか、知る術がない。後者ではなければいい。泣いてほしくない。
整った顔面が迫る。影とともに、額に硬い何かが落ちてきた。あっつ、と低い独白がこぼされた。
「……体調わりぃなら言えよな」
「っは、……が、ぅ」
「おかしいと思ったんだ。様子ちがったし、手ぇ熱かったし……。二階堂先生を連れてきて正解だったな」
ちがう。ちがうんだよ。
大丈夫だよ。大丈夫だったの。元気だったし、楽しかったし、幸せだった。ただ、ただね、自分よりも大切にしたいことがあった。それがたまたま正しいことじゃなかっただけなの。
苦しいけど、苦しくないよ。この苦しさは、とっても、いとおしい。
「心配、かけんじゃねぇよ……っ」
木本くん、木本くん。
あのね。わたし。
聴いてほしい。伝えたいことがある。言いたかったことがある。
わたし。わたしは。
「……ん、ね、」
「まひる……?」
「ごめん、ね。うそ、ついちゃった」
傷つけてしまった。
やさしくなれなかった。
ごめんね。ありがとう。ごめんね。
わたしは今どんな顔をしているんだろう。見られたくなかった。きっとうそみたいに赤く、醜く、みっともないであろう顔を、木本くんの首筋にうずめて隠した。
光が遮断されていく。のどをかすらせ、うなるように喘ぐ。ドックンドックンとこだまする心拍が脳内と共鳴し、そして――あっけなく意識を手放した。
また待ってる。ずっと、待ってる。
目が覚めたら、うそじゃないきみが会いに来て。