きみのひだまりになりたい
そう。そんな表情をさせたくなくて、ためらってしまった。ごめん。あれが本当に正しかったとは言えないけれど、後悔はかけらもしてないよ。
「木本くんだから、うそをつこうと思った。うそをついてもいい、苦しくなってもいい、って。それで木本くんを救えるなら」
「……ほんと、バカだな」
「わたしは正直に生きようとしただけ。あのうそも、わたしがつきたかったからついたんだよ」
「それで自分が苦しんでっからバカなんだよ」
「なら、バカでいいよ」
だから、ねぇ。そんな表情しないで。わたしからも、あの5文字を贈らせてよ。
木本くんの頭が右肩に落ちてきた。ぐりぐりとこすりつけられる。低体温がじわじわと浸透していく。
ふやけた手のひらを合わせた。ぎこちなく指と指を交わらせ、あのときの熱をよみがえらせる。つなぎ方も、想い方も、1週間前の夜とはなぜだか少しちがう気がした。
「……まひる、ありがとな」
「ううん。わたしこそ。ごめん。……ありがとう」
まひる、だって。今わたしの名前を呼ぶなんてずるいな。確信犯かな。ちょっと、いやかなり、照れくさいね。ドキドキする。この心音が聞こえちゃってないか心配で、もっとドキドキしちゃうよ。どうしてくれるの。
あ、木本くんの耳、赤らんでる。名前みたいな、ほのかな朱色。この心音は、もしかしたら、わたしのだけじゃないのかも。だったら、なおさら、夏のせいにはできないね。