きみのひだまりになりたい


偶然にも、ここにいる5人は同じ役割を担っている。衣装係だ。どういうふうに役割を進めていくか、わきあいあいと話し合っているうちに、自然と5人で昼食を摂る流れになった。




「浴衣どうする? みんなで着たいよね?」

「女子はともかく、男子たち持ってるかな~?」

「持ってなかったら、女子の貸してあげる?」

「わはは! それ最高!」

「でも、あたし、自分で着付けできないんだよね」

「わたしも。難しいよね」

「てか、できる人のほうが少なくない?」




まず直面する、着付け問題。縁日に浴衣はぜったい外せない。かと言って、わたしもひとりでは着られない。いつも着るときは、お母さんに手伝ってもらっている。そのお母さんでさえも、ネットと動画を活用してやっとだ。


着付けができる人がいたとしても、せいぜい1人や2人だろう。20名弱もいる女子全員の着付けをするには、荷が重すぎる。ネットや動画に頼るのは気が引けた。本番うまくいかなかった場合のことを考えてしまう。

やっぱりこういうのは、実際に目で見て、体験して、学んでくるのがいちばんなんじゃないかな。百聞は一見にしかず、と言うし。




「みんなで着付け教室に通う?」




商店街に、和服専門店がある。そこの女将さんは親しみ深く、気前がいい。登下校で店前を通るたびに、あいさつをして、世間話をしてくれる。もはや親戚のおばさんに近い存在になりつつある。


女将さんは和服の良さを伝えようと、毎月様々なキャンペーンを行っている。先月はお茶会、先々月は着付け教室だった。しかもどのキャンペーンもたいてい無料。太っ腹すぎる。


今月はまた別のキャンペーンを計画していると聞いた。だけれど、真剣に頼みこめばきっと、女将さんなら了承してくれると思う。お金はかからないし、女将さんはやさしいし、着付けのスキルも得られる。一石三鳥だ。これほど好条件はなかなかないだろう。


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