きみのひだまりになりたい


雰囲気がガラリと変わった。嘲笑めいた声は消え失せ、楽しそうに賛成の意を唱えている。わたしがあいづちのひとつも打てていないことに、気づきもしないで。


わたしだけが、なじめていない。うまく笑えない。疎外感を色濃く感じていた。心臓の痛みが激しくなっていく。


恥ずかしかった。おそろしかった。いたたまれなかった。

わたしの言葉ではだめなんだと、思わざるを得なかった。わたしが今、黒い感情を抱いていることさえも、まちがいなんだろう。きっとそうだ。でなければ、わたしは、サイテーな人間になってしまう。




「えっ、てかねぇ、見てみて! 結月のお弁当!」

「わ! かわい~~!」

「キャラ弁? うさぎがお月見してる!」

「もしかしてこれ、結月が作ったの?」



「う、うん。へたっぴなんだけど、作ってみたくなって。でもね、まひるちゃんのほうが」



「え~! すご~い!」

「全っ然へたじゃないよ!」

「こりゃモテるわけだわ。あたしも嫁にほしいもん」




女子3人の褒め殺しに、結月ちゃんは圧倒されて苦笑をもらす。うん、すごいよね、とわたしも合わせてうなずいた。この勢いを引き裂ける度胸は、とっくになくなっていた。


正面にある小さなお弁当箱で、1匹のうさぎが満月を見つめていた。対して、わたしの黄色い箱の中は、健康重視の緑と、残り物の茶色の詰め合わせ。まったくかわいくない。

わたしも自分で作った。料理は得意分野だ。でもそれを、今ここで言う気にはなれなかった。言わないほうがいい。言ってはいけない。自分で心臓にトゲを継ぎ足した。


たけのこの炊き込みごはんをひと口ぶん、箸ですくい取った。愛想笑いをする口に放り捨てる。ひとりで食べてるわけじゃないのに、どうしてか、あんまりおいしく感じられなかった。


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