きみのひだまりになりたい


自分の思いとは正反対のうそ。最近はそれがやさしさだった。じゃあ、これは? これもやさしいうそだった? 誰のためのうそだったっけ? 自分じゃたしかめられなくなってしまった。


鉛筆の線をふちどり終える寸前、結月ちゃんは静かに黒ペンを置いた。なんてことない動作のはずが、いやに冷や汗をかく。




「……あたしね、付き合うなら自分が好きになった人とって、決めてるんだ」



「えー、そうなのー?」

「ロマンチストだねぇ」

「まあ、それがいちばんだよね」



「うん、だから、お試しとか期間限定とか、軽い気持ちで付き合いたくないんだ。あたしもちゃんと人を好きになりたいの」




結月ちゃんの表情が読めなかった。声色はひどくおだやかなようで、その実、危うげにも聞こえる。言わなくてもわかるほど近くにいたのに、今は、言葉を聞いても何もつかめない。


どうして。いつから。こんなに遠くなってしまったの。



ギ、と椅子の脚が摩擦を起こした。結月ちゃんが立ち上がり、わたしたちの頭を見下ろす。一時的に恋バナの活気がおとろえる。心臓にわるい静寂のできあがりだ。




「ペン、足りないね。あたし、取ってくる」




女子たちは「ありがと~」「助かる~」と口々に礼を告げ、すぐにまた恋バナに花を咲かせる。ひとりで教室を出て行く結月ちゃんの背中が、妙に悲しそうに見えた。いてもたってもいられず、わたしも席を立つ。


これは、罪悪感? 後悔? 悲観?
何が、誰に、なぜ。


なぜ。


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