きみのひだまりになりたい
廊下へ飛び出した。吹奏楽部の演奏が反響していた。その音色をじゃまするように足音をけたたましく打ち鳴らしていく。階段に差しかかり、結月ちゃんの背中に追いついた。
「っ結月ちゃん!」
小枝のような細い足が、ぴたりと止まる。もう一度名前を呼べば、ゆっくり振り向く。睨まれた。つぶらな瞳を鋭利にとがらせ、涙をこぼさないよう必死に力をこめている。
そんな表情を、初めて目の当たりにした。1年以上も一緒にいるのに、結月ちゃんにもそういう感情があり、それをわたしがぶつけられることになるなんて知りよしもなかった。
できることなら、知りたくなかった。その表情をさせているのが、わたしだと。
「……まひるちゃんも、ずっと、あんなふうに思ってたの?」
「っ、え……」
「あたし、勝手に、困っているときはまひるちゃんが助けてくれる気がしてた。思い上がりだったね」
「ちが……!」
反射的に声を張った。続きを用意していなくて黙りこむ。
ちがう。思い上がりじゃない。助けようとした。あんなこと、言うつもりじゃなかった。どれもこれも、言い訳に過ぎないね。
結月ちゃんはうす笑いを浮かべ、赤らんだ目を眇めた。
「ちがう? 何が?」
「そ、れは……」
「じゃあ教えてよ。まひるちゃんが何を思っているのか。本当のこと、聴かせて?」
「……あ……っ、」
本当のこと。思い。……そんなもの。
「…………」
「……なんで、何も言ってくれないの?」
「…………」
「まひるちゃんらしくないよ……!」