きみのひだまりになりたい
階段に足をかけた。木々の影が重なり、足元が暗い。転ばないよう注意しながらのぼっていくと、うす汚れた屋根が見えた。
「こんなところに、東屋が……」
人の気配はない。柱に触れてみると、ひんやりと冷たい。お社と同様に、形として残っているのがふしぎなくらい老朽化が進んでおり、ボロボロに傷ついていた。
まるで、わたしみたい。だからかな。ここは居心地がいい。
屋根にできたすき間から、夕焼けの残像が降りしきる。蒼然とした地面を、点々と灯していた。
ベンチに座り、うずくまった。体重のぶんだけ板が歪んでいく。壊れてしまわないかひやひやしたが、やがて歪みが安定し、肌寒い静けさが訪れた。
わたしの息づかい。心音。温度。すべて鮮明に感じ取れる。得も言えぬ、孤独感。ほどよいさみしさ。癒えない苦痛。今のわたしにはちょうどいい。
独りになりかった。誰にも、侵されたくなかった。
お願いだから、これ以上、傷を負わせないで。
「――、」
他人の息づかい。いち早く気づき、神経を張りめぐらせた。誰かが、いる。自分以外の存在をこれほどまでに忌みきらったことはない。自分勝手な苛立ちをふつふつと沸かせた。
視線だけを持ち上げる。ダークブラウンの髪をした男の子だ。がたいのいい体に他校の制服をまとい、エナメルのバッグを背負っている。わたしには何ら関係のない、赤の他人だった。
彼も、きまりのわるい面持ちをしていた。こちらをじっと見て、憂いた色を浮かべる。それがなんとなく、トゲまみれの心臓に障った。