きみのひだまりになりたい
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
やめて。やめてよ。そういうのいらない。今、求めてない。
やさしいふりをしないで。きみだって苦しそうなくせに。大丈夫じゃないんだから、聞かないで。ほっといてよ。わたしは独りになりたいの。どうしてわかってくれないの。
「体調、わるいんですか……?」
「…………」
「あ、これ……オレンジジュース。今これしか持ってなくて……。好き、ですか? もし好きなら、よければ……」
「きらいっ!!」
差し出された紙パックを、彼の手ごと振り払った。紙パックが足元に転がり、水気のある表面に砂がついた。彼の黒い瞳が、やるせなく光る。
あ……。
わたし、また、傷つけた。
不安定に曲げられたその表情に、血の気が引いていった。結月ちゃんとおんなじ傷をつけてしまった。こんなの八つ当たりも同然だ。わたしはいつだってやさしさにうそをついている。
サイテー。もうやだ。こんな自分、だいっきらいだ。そんなんだから、救われないんだよ。
「ご、ごめんなさ……」
先に謝られ、開きかけた唇を縫い留めた。どくどくと血液がめぐっていくにつれ、罪意識に溺れていく。気遣ってくれた手を、痛めつけた自分の手が、今になってひりつき出した。
彼は紙パックを拾い上げ、砂を払い落とした。落としきれない汚れは、カッターシャツの袖で拭い取る。わたしを横目に、丸いテーブルの上にオレンジジュースを置いた。
「い、一応、ここに置いておきます。本当にきらいだったら、捨ててくれてかまいませんので」
「……っ」
「無理、しないでくださいね……?」
どうして……。
傷ついているんでしょ。わたしに傷つけられたでしょ。それなのにどうしてまだ、やさしくできるの。おかしいじゃん。そんなのふつう、できないよ。
男の子のほうこそ、無理して笑っていた。それはまぎれもなく、わたしのため。
よけいにトゲが埋まっていく。ドクン、と心音が熱くなった。