きみのひだまりになりたい
彼がいなくなり、日が沈むまで東屋にこもった。テーブルの上で忍び泣く、白と橙色の長方形。『オレンジ100%』の名称で知られるそのジュースを、置き去りにはできない。仕方なく手に取った。
きらいじゃない。好きだ。すごく好きだ。
ごめん。ごめんなさい。ありがとう。
今ならなんとでも言える。今さら手遅れだ。こんな思い悩むくらいなら、あのとき、言えばよかった。
「おかえりなさい。遅かったわね。何かあった?」
家に帰ると、お母さんに出迎えられた。顔色の冴えない娘に、心配そうに首をかしげる。そこはかとなく焼き魚のいい匂いがする。空っぽの胃を触発する。今日は、少し、吐き気を覚えた。
手のひらがふやける。オレンジジュースがすべり落ちそうになり、すぐさま強く握った。べこ、と紙パックが変形する。その感触がどうも気持ちがわるく感じた。
「まひる……? どうしたの?」
「……、な、なんでも、な」
うそ。なんでもなくない。
心を殺した。ヒトを、苦しめた。ごめん、も、言えなかった。
ぐわっと胃の底から激流が起こった。心臓が早鐘を打ち、体温が高まっていく。熱い。皮膚が内側から焼かれていくようだ。息ができない。絞まっていくのどに、かろうじて細々と酸素を流した。
なんで。何が、どうなっているの。わたし、どうなってしまうの。やだよ。助けて。誰か。神さま。
めまいがする。ふらついたわたしを、お母さんが焦って支える。赤みがかった肌には、ぽつぽつと蕁麻疹ができていた。バチが当たったんだろうと、うすれていく意識の中でぼんやりと嘆いた。