きみのひだまりになりたい


やさしくなれないことは、わたしがいちばん、気づいてる。


ベッドに入り、毛布をかぶった。小さく丸まった。耳をふさいだ。目をつむった。何もかもシャットダウンし、真っ暗闇に身を投じた。それ以上先には、逃げきれそうになかった。




「まひるちゃん……!」


「っ!」




叫び声がかすれながらも、布団の縫い目を横切り、手をすり抜け、聴覚を力強く叩いた。どんなに壁を作っても、ぜんぶ飛び越して届けられる。あきらめてくれない。


わたし、受け取れないよ。何の気なしに返事なんかしたくない。そんな簡単なことじゃないんだよ。この傷も、その傷も、触れるだけで悪化するにきまってる。

いやだよ。つらいよ。消えてしまいたい。




「まひるちゃん。あのね、聴いて?」


「…………」


「明日、文化祭だよ。秋祭りは行けなかったけど……あ、あたし!」


「…………」


「あたしはね! 文化祭こそは、まひるちゃんと楽しみたいって思ってるよ!」




扉が振動した。木目を指でなぞる。鼻をすする。名前をささやく。一歩うしろに下がる。感覚はすべて閉ざしているにもかかわらず、どの音もはっきりと伝わってきた。


楽しみたい、って。知らない。わからない。

……そうだよ。わかるはずがない。だって、顔を合わせていない。しゃべっていない。ずっと近くにいた結月ちゃんは、今はあんなに遠い。怒ってるとか、悲しんでるとか妄想して、わかった気になっていた。


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