きみのひだまりになりたい
じわじわと涙があふれた。熱の放れた頬に、熱のこもった雫が伝っていく。涙腺がぶっ壊れたようで、いくら拭いてもぼろぼろ流れる。
オレンジジュースの横に置いていた鏡に、ぐちゃぐちゃな顔が反射した。ひっどい顔してる。真っ青に濡れて、目元だけ赤くて、口の端がだらしなく垂れている。
でも……わるくない。
ストローをもう一度みかん色に染め上げ、ベッドを下りた。地に足をつけ、深呼吸する。鏡の前で笑ってみせた。へったくそな作り笑顔。かわいげのかけらもない。
それでいい。笑えてるなら、いいんだ。
痛いもんは痛い。ヒトは怖い。正直にい続けるのはしんどい。
それでも、わたしも、大丈夫になりたい。
傷つけたくない。やさしくしたい。そう在りたいから、わたしが、大丈夫にする。
ハサミを握り締めた。輪っかに右手を通し、左手でぱさついた長い髪をわしづかみにする。刃ではさみ、覚悟を決めて指を折り曲げた。切れ味がいい。こしから鎖骨あたりまでばっさり切れた。身体が軽くなる。
泣きながら、髪を切り落とし、笑ってるなんて、変人そのもので無様に思う。いいよね、こういうのも。逃げ隠れしていたときよりもうんとかっこいいじゃないか。うそつきなわたしとは、さよならだ。
扉の前でつま先をそろえた。ドアノブに触れる。とたんに音痴になった心臓につられて、指先が震えてしまう。緊張する。思わず手を引っこめようとした。
「……会いたいよ、まひるちゃん」
呼んでる。
大切な友だちが、わたしを待ってる。
行かなくちゃ。
ゆるみかけた指を、ドアノブにくっつけた。そうっと手を回していった。ほの暗い室内に光が差す。まぶしさを一身に受けた。