きみのひだまりになりたい
『オレンジ100%』
わたしの、いちばん。大好きなジュース。何があってもきらいになれない味。とびきりのやさしさをくれる、お守りのようなもの。とっておきの宝物。
木本くんのおかげだよ。
「なら、いい」
「いい、って……?」
「謝んな」
「え、でも……」
「十分すぎるくらい伝わってる」
大事にしてきた思いほど、言葉にしなくても届いていた。知らぬ間に、わたしと木本くんは、それくらい近い距離にいた。
言わなくてもわかる。そんな関係にもなれたらいいね。でも、たまには言葉にしたいし、してほしい。もっと木本くんのことが知りたいんだよ。届けたら、応えてね。やな思いをしたときは逃げておいで。わたしと、大丈夫になろうよ。
「まひる」
ベンチが軋んだ。たった数ミリのすき間がなくなった。だんだんと昼光の当たる範囲が広がっていく。
わたしと木本くんの太ももが、触れそうで触れない。ふたりのちょうど真ん中で、手と手がくっつき合う。そういえば離すタイミングを失っていた。まあいいか。今はまだ、見つからないままがいい。
「木本くん?」
「まひる」
「……? ……き、……朱里、くん?」
ためらいがちに呼んでみた。ちょっと声がうわずる。ドキドキどころじゃない。ドックンドックン、って、再発したんじゃないかってくらい心臓がおどり狂う。そりゃあ赤くもなるよね。
額の横あたりに重みを感じた。隣を向かずとも、横目にきれいな顔立ちがドアップで映る。長いまつ毛があと少しで目元をくすぐりそうだ。また熱を測ってくれているのかとうろたえてしまう。
木本――朱里くんは、涙ぐみながら一笑していた。どぎまぎとした余裕のなさが、一瞬にして落ち着きを取り戻し、和やかなよころびに変わる。
「おれのこと、あきらめないでくれて……よかった」
「わたしも……。出会えてよかった。幸せだなって思うよ」
3文字はよくても、5文字は伝えさせてほしい。古傷も後悔も、ぜんぶ、大切だから。いとおしみながら守っていくよ。
ねぇ、朱里くん。
わたしはきみのひだまりになれたかな。