きみのひだまりになりたい
むうっとふくらんだひよりんの両方のほっぺを、わたしはかぶりを振りながら手で押さえる。ちがうよ、それはちがうよ、と洗脳するように、とんがったうるうるリップから空気を抜いていく。
ひよりんはわたしの手を引っぺがし、おとなりさんに賛同を求める。塗ったばかりの日焼け止めクリームが、手のひらにべっとりついていた。
「朝也も、まひるんは愛されてるって思うよね~?」
「…………」
「朝也?」
「……奇跡、か……」
小野寺くんは放心していた。ぼうっと上の空で、ぶつぶつ独り言を呟いている。机に置きっ放しのリュックを片づけようとしない。
目を開けたまま寝ているのではないかと、顔の前で手を振ってみる。だめだ。ぼんやりしてる。変だな。試合続きで疲労がたまってるのかも。
「……奇跡……」
「? 起きてる?」
「朝也~? なんかあった?」
「……奇跡って、起こるもんなんだな……」
脈絡なくにやけた小野寺くんに、わたしとひよりんは顔を見合わせて不審がった。彼の無邪気な反応に謎が深まっていく。夢見心地な雰囲気が、汗だくな坊主頭を取り囲んでいた。
その奇跡とやらに、小野寺くんの意識が集中している。それほど幸福感に満ちた奇跡だったってこと? うーむ、気になる……。
するとひよりんが、あたしに任せなさい、と言わんばかりに胸を張った。隣の席に身を寄せ、口も寄せ、耳元めがけて叫んだ。
「朝也にも奇跡があったの!?」
「……っ、ふへ?」
ひよりん渾身の大音量の余韻が、こちらにまでじんじん響いている。小野寺くんは、はっと息を吹き返した。おはよう。いい夢を見てたみたいだね。
「え……あれ? お、おれ……声に出てた?」
「うん! 思いっきりね!」
「まじか……」
「奇跡って、何~?」
「あ、ああ……。実はさ! さっき、朱里のやつが……」
――キーンコーンカーンコーン。
え!? なに!?
朱里くんがどうしたって!?
とっても気になるところで、チャイムにさえぎられた。タイミングがわるすぎる。
二階堂先生が入室し、一気に私語が減る。おあずけを食らった気分。気をもみながら、しぶしぶ前に向き直した。