きみのひだまりになりたい
◇◇
短い針と長い針の両方が、「12」の位置に達した。
国数英と続いた授業が、終わりを迎えた。最後の英語を乗り切り、晴れて自由の身。教室の内側が騒々しいほどに活気づく。これから夏休み後半戦が始まるのだ。エアコンは効いているが、クラスメイトの興奮は冷めるところを知らない。
そんな熱に誰よりも当てられ、あわ踊りでもしそうなひよりんは、ひとり机に突っ伏している。ここだけ曇天模様だ。
お勉強は苦手で、遊ぶことは大好きな典型的なタイプであったと記憶していたが、色白なその手には、つい数分前まで取り扱っていた英語のプリントが握りしめられている。
むむむっと眉間にしわを刻み、うなりながら真剣に英単語を追いかけている。隣から小野寺くんがプリントを覗きこんだ。苦労性でおせっかいなイイヤツなところが、大いに発揮されている。
「あー! もう! わっかんなーい!」
「どこが?」
「ここの文法。なんで過去形になるの!?」
「仮定法な……。そこは日本語にすると説明がむずいんだよな……」
ひよりんとは期末テスト前に勉強会を催した。そのとき英語の基本はそれなりに得とくできた。テストでもいい点を取れたと感激していたっけ。
だけど応用となると話が変わってくる。長い文章だと難解な熟語が頻出し、訳しづらくなる。夏休みの宿題にも、応用部分が多く出題されていた。以前より格段に知識が定着してきたとはいえ、ひよりんも危機感を抱いているんだろう。
通常なら、休憩時間に小野寺くんに教えてもらっていた。今日は夏休み中の補講のため、小野寺くんはこれから野球部の練習に行かなければならない。そのうえ、内容も内容で、さらっと教えるのは難しいところ。