きみのひだまりになりたい



「それに、今日は朱里も……」




あ。また、朱里くんの名前……!

ホームルーム前も言ってたよね。奇跡がなんとかって。あの続きが気になりすぎて、さっきの英語のリスニングは散々な結果だった。


思い出したかのように小野寺くんがわたしを捉えた。ゆるゆると開かれていった口は、すぐにつぐまれてしまった。やや考えこむと、にぃっと白い歯を光らせる。




「田中。朱里のこと、あとで本人から聞いてやれよ」


「聞くって……?」


「朱里の話は、本人の口から聞く主義だったろ?」




それはそうだけど……。話が見えない。一体何があったの。


きょとんとすれば、小野寺くんはいたずらっ子みたいに喉仏を上下させた。期待値が上がっていく。こうなったら本人から話を聞けるまで帰らないぞ。




「でもさあ、まひるん。今日は昼休みないよ?」


「屋上に行くだけ行ってみる。案外いるかもしれないし」


「……そっかあ。まひるんらしいね」




わたしらしい。その何気ない言葉が、胸に灯る。

そうだね。わたしは今日も、わたしらしくいられている。生きづらく、生きやすく、そうやって生きている。




「じゃ、またな!」


「またね! みんながんばってこー!」




気合いの入った小野寺くんとひよりんに大きく手を振る。階段を下りていくふたりを見送り、わたしは階段を上がる。と、その前に、自販機に立ち寄った。


3段目のボタン。ガコンッと受け口が振動する。今日も安定のオレンジジュース。赤く点滅したボタンに「売り切れ」の文字が現れる。ギリギリセーフ。とうとう運に恵まれた。


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