きみのひだまりになりたい
坊主……ほどではないよね。そういうの、スポーツ刈りって言うんだっけ。すっごく似合ってるし、かっこいいんだけど。だけどさ……!
「き、急に、どうして……!?」
「決意表明、みたいな」
「決意表明?」
朱里くんは握りしめていたマジックペンを置いた。先ほどまで何やら書きこんでいた用紙が、ひらひらと風にあおられる。上と下をしっかりと押さえ、わたしの眼前に見せつけた。
黄ばんだ、ソレ。何本ものシワがつき、中央部分はとりわけでこぼこに曲がっている。そのいちばん上の四角と、その真下に引かれた一本の線に、形はちがうけれど大きさの競った、黒のインクがにじんでいた。
『野球部』
『木本 朱里』
それは。その言葉は。そこにこめられた思いは。
すべて見通したように風が吹く。1秒過ぎ去るごとに、感情が目まぐるしく入れ替わっていった。仰天、疑心、感動、喜色。あまりに衝撃が大きすぎて、頭が追いつかない。
「入部届……だ……」
「今朝、朝也から受け取った」
「野球、するの……?」
「……ああ。決めたんだ。そろそろおれも、自分の好きなことに真っ直ぐになろうって」
奇跡ってこのことだったんだ。本当だ。奇跡みたいだね。でも、奇跡とは少しちがう。そんな不確かであやふやなものじゃない。
いくら実力があるといっても、入部してすぐにスタメン入りできるわけじゃない。ブランクがあるし、一度捨てたことがなかったことにはならない。もしかしたら、はじめは補佐的な位置づけかもしれない。
そうわかっていて、書いた。油性のペンで、一面日なたのこの場で、自ら逃げ道を断った。