きみのひだまりになりたい
迷惑そうな、気恥ずかしそうな、何とも言えない顔つきに「は?」とでかでかと本音が貼り付いた。あ、その本音、朝にも聞いたやつ。
ポタリ。とうとう真っ赤な汗が地面を染めた。光の差す灰色に溶けていく。酸味のある匂いがたゆたう。それに気づく余裕がないほど木本くんは混乱していた。
「だから、なんで」
ようやっと出てきたのは、たどたどしい一言で。
なんで、とわたしは思わずオウム返ししてしまった。なんで。改めて聞かれると明確な答えをすぐに言葉にできない。
こうやって話すのはもっと先のことだと思っていたから。いや、今か今かと待ち焦がれてはいたのだけれど、期待半分、今日じゃないんだろうなとあきらめ半分くらいのモチベーションで、1年以上やってきていた。
だからうまく言葉が出てこない、んだと思う。
今日だけで進展がありすぎて、たぶん、わたしもそうとうぐちゃぐちゃになってる。
「えっと……あっ! そう、そのオレンジジュース!」
「は? これ?」
「そう! それ、わたしも好きだよって、伝えたかった」
「はあ?」
「あと……恩返し? みたいな?」
「疑問形かよ」
「いや本当に、会いたかった、ってことがすべてすぎて……うーん……」
あぁ、どうしよう。
なんて言えばいいんだろう。
目についた長方形を示してみたけれど、結局はふりだしに戻ってきてしまう。わたしの中にある語彙が底をついた。
真っ直ぐに伝えるだけ伝えてみても、木本くんの反応がわるいのは明々白々だった。
今言ったこと、うそじゃない。ぜんぶ、ぜんぶ本当なのに、どうしてこうもうすっぺらく感じるんだろう。真っ直ぐなだけじゃだめみたい。
ただ、いちばんは、会いたかった。
その一言に尽きるのだ。
「とりあえず、木本くんと仲良くなりたい! です!」