きみのひだまりになりたい
距離を埋めるように顔を、ずいっと近づけ、全力で気持ちをぶつけた。
真っ直ぐなだけでは無力と等しいとしても、今のわたしにはこれくらいしかないから。当たってみないと砕けるかどうかなんてわかりっこない。
心臓がこれでもかってくらい熱くなる。その熱が木本くんにも伝わったのか、やや圧倒されていた。
会いたかった。
きみのことを、知りたかった。
ずっと、気になってた。
わたしが近づいたぶん、身を反らされた。じょじょに木本くんは表情筋を歪ませていく。苦味をぐっと押しつぶし、わたしから顔ごと背けた。今の木本くんの心臓は、ひどく冷え込んでいる気がした。
「仲良くとか、無理だから」
食べかけのアメリカンドッグを持ったまま、木本くんは立ち上がった。すらりと長い足が、まるで壁のようで。また距離が開いてしまった。
鮮やかな日差しが真上から明暗を分けていく。木本くんの影に覆われたわたしは、真っ黒だ。
「言ってること意味不明だし、恩返しとか、おれ何もしてねぇし。だから、もう、来んな」
あからさまな、拒絶。
昼食を入れ直した袋を手首に下げ、わたしの横を通り過ぎていく。カサカサと袋が鳴る音が、右耳を刺激する。
ギイギイと軋むはしごが静まると、木本くんの気配が消えた。
地面に並んだふたつの『オレンジ100%』の表面に水滴が浮かぶ。泣いているふうにさえ見えた。
来んなって言っておいて、木本くんが出て行っちゃうんだね。
黄色の箸でもうひとつのたまご焼きをつかんだ。ゆっくり口に運んでいく。舌の上に乗っけると、ほどよい塩味が染みていった。
だけど。
やっぱり。
さっきより、おいしくない。