きみのひだまりになりたい
ちらりと視線をななめ下に転がした。左隣にちょこんと立つオレンジジュースが、微動だにせずに石畳の階段をじっと眺めている。きみもあきらめがわるいのね、と語りかけてみた。味気ない笑みがこぼれる。
あきらめがわるいオレンジジュースなんておかしな話。でも、わたしがそう感じたんだから、それでいいんだ。
それで、よかったんだよね。
ずっと思っていた。
傷つけたくない。
やさしくしたい。
そう在りたい。
それを丸ごと伝えればよかった。言葉そのものよりも、まずは伝えることが必要だった。上手に言葉をたぐり寄せるのは、そのあとからでも遅くない。
手探りだっていい。砕けたっていい。わたしもあきらめがわるいから。届くまで何度も何度も伝えたい。
きみからも、伝えてほしいよ。
「……ねぇ、そっちこそ、なんで」
ひざ小僧に右頬をすり寄せ、紙パックの表面をひと撫でする。オレンジジュースは何も答えてはくれない。閑散とした東屋にわたしの声だけが響いて、消える。静けさをまぎらわすように昼休みのことを想起した。
――『仲良くとか、無理だから』
木本くんはあきらめが早すぎる。
わたしたちはまだ、言わなくてもわかるような深い関係じゃない。だから、これから、何にだってなれる。
空だっていろんな色に染まる。
わたしたちもおんなじだよ。
紙パックに触れた指の腹が、わずかに湿った気がした。