きみのひだまりになりたい
席が前後というありきたりな出会いだった。
入学式の日から、わたしは髪型と制服の着方を自己流にして登校していた。異彩を放っていた存在を、二階堂先生でなくとも前任の先生も留意していた。クラスメイトのほとんどが探り探りだった。
『そのヘアアレンジかわいいね!』
ひよりんだけだった。出会いがしらにわけへだてなく声をかけてくれたのは。
飼い犬みたいに人懐っこい笑顔を向けてくれたことを、そのときの気持ちとともに鮮明に覚えている。
それをきっかけにまたたく間に仲良くなった。わたしはまひるん、晴依はひよりん。あだ名をそろえてニコイチ感。わたしがクラスで浮かなかったのは、ひよりんのおかげもあるかもしれない。
「だめだった、かも……」
ドンドン叩いていた握りこぶしは、いつの間にか机にぴったりくっついていた。ひよりんのおでこも机に吸い寄せられ、一瞬にして突っ伏してしまった。
そうとうボロボロだったんだろう。そういえば小テスト中、うしろの席からはシャーペンの走る音はあまり聞こえてこなかった。
ひよりんは特に英語が苦手だ。今回の小テストの結果が40点以下だった場合、先生から補習用の課題を言い渡される。
そのことを前回の授業で忠告されていたため、ひよりんは今日の小テストを恐れていた。今朝なんて単語帳を読みながら登校してきたくらいだ。
「今日気合い入れてきたんでしょ?」
単語帳だけでもびっくりしたのに、勝負服を着てきたのだとも豪語された。いつもと心がまえがちがうのは明らかだった。
白いワイシャツではなく、小さなアルファベットがたくさん刺繍されたシャツ。遊び心のあるカジュアルめなその服は、ひよりんのお気に入りの一着だという。かわいいでしょう、と自慢げに見せびらかしていた。
あの満ちあふれていた自信は、今では影も形もない。心なしかシャツにしわが増えたような気さえしてくる。せっかくの気合いが見るも無惨に散っていったさまを、こうもありありと目の当たりすることになるとは、今朝の時点ではまったく思いもしていなかった。