きみのひだまりになりたい
「田中!」
階段側から怒鳴り声が飛んできた。
狙いは、わたし。
ため息と舌打ちが同時にこぼれそうになったところを、オレンジジュースを思い切り吸い込んでごまかした。紙パックの中の空気が抜ける。あ、また、つぶれた。
ドスドスと重たい足音が近づいてくる。ちらりと見やれば、ふきげんそうにつりあがった目とかち合った。
あーあ、最悪。
「もう一回あいさつしたほうがいいですか? センセ」
「はぐらかすんじゃない」
窓を開けたところに差しかかる手前で、先生は立ち止まった。
きっちりしたグレーのスーツ。しわのない新品さながらのワイシャツ。七三分けの古風な髪型。ていねいに剃られたヒゲ。生活指導担当というだけあって、上から下まで身だしなみはカンペキだ。
だけど、うーん……
なんか暑苦しいんだよなあ。
見た目の圧がすごいというか、なんというか。
6月になり、衣替え期間真っただ中。だんだんと爽涼さを求めるシーズンへ移り変わってきた。
この男――二階堂先生には、爽やかが欠けている。ない。どこにもない。40代後半だからだろうか。威厳を手に入れた代わりに失くしたんだろう。残念である。せっかくここで涼んでたのに台なしだ。