きみのひだまりになりたい
「いつまでそうやって無視するつもりだよ!」
野次馬をかき分け先頭に躍り出ると、中心には木本くんがいた。黒色のカーディガンがベストに様変わりしてる。
ひじあたりまで折られたワイシャツからのぞく、太いうで。それを力強くつかんで離さない、坊主頭の男子。
あれほど叫び散らされても、木本くんは口を開こうとしない。青緑色の血管が浮き出た手をにらみ、離せ、と訴えている。つかむ手は弱まるどころか力んでいった。
坊主頭の男子は、震えていた。
木本くんと対峙してる彼はきっと、野次馬がいることも、語気をどれだけ荒げているのかも気づいていない。
必死だった。木本くんに真っ向から言葉を、思いを、届けようとしてるんだ。
「勝手に、やめんなよ。ぜんぶ捨ててんじゃねぇよ」
「…………」
「あれはおまえのせいじゃねぇって、何度言やわかんだ」
あぁ、そっか。木本くんにも友だちがいたんだ。
こんな状況だというのに安心してしまった。
ずっとひとりぼっちじゃなかった。一緒にごはんを食べる人がいた。そのすべてが過去形なことに、また、かなしくなる。
そっか……。木本くん、ぜんぶ捨てちゃったんだ。
「怖がってないで戻ってこいよ」
うでをつかんでいた手を下ろした代わりに、反対の手が木本くんの左胸に伸びた。手には真っ白な入部届が握られていた。ぺち、と二つ折りの紙がベストの上に当たる。