きみのひだまりになりたい
『野球部』
いちばん上の欄だけ、ご丁寧に大きく記入されていた。わたしのところからもはっきりと見えるくらい大きい。
油性のマジックペンで書かれたその文字とは裏腹に、骨ばった手はやっぱり震えていた。力をこめすぎて、紙の表面にくしゃりとしわが寄る。
「なあ、朱里」
「…………」
入部届から視線を上げていった木本くんと、目が合った。
ぜったい、わたしと、目が合った。
アメリカンドッグの油が、手のひらの汗に混ざっていく。
黒い瞳はわたしを見つけとたん、わかりやすく揺れ惑った。1秒も経たずに背を向けられた。坊主頭の男子から一歩距離を取る。
届けても届けても、一言のお返しもない。
きみはまだ、一度だって届けようとしていない。
「朱里!」
大声で呼ばれても振り返るどころか遠のいていく。上履きの音がむなしく響く。
距離が開くにつれ、野次馬はざわめいていった。
行き場を失った入部届はくしゃくしゃに丸められ、うでごとだらんと垂れ下がる。坊主頭の男子の背中も丸まっていった。
しだいに人だかりが散っていく。ぽつんと取り残された坊主頭の男子が自分と重なって、わたしも動けずにいた。お昼ごはんは冷めてしまったかもしれない。