きみのひだまりになりたい
「聞いてるのか!」
わたしと人一人分ほどの距離が開いているにもかかわらず少しつばが飛んだ。口調の圧もすごい。
うへぇ……。
結露した水滴でぬれた手のひらでつばを拭い取る。今すぐ手を洗いに行きたい。
「なんだ、その顔は」
不愉快さがそのまま顔に出ていたらしい。先生には誤解を与えてしまったようだ。目元のしわがみっつ増え、当たりがきつくなった。とことんツイてない。
先生がイヤなわけじゃないよ。
つばを飛ばされたのがイヤなだけ。
「反抗するのはやめなさい」
「反抗してないですよ」
「またはぐらかす気か」
本当なのに。なかなか伝わらないな。こうやって言葉を交わせるのにどうしてだろう。信用されてないんだろうな。
先生にとっては、わたしの言葉などひどくうすっぺらいにちがいない。
みかんの甘さが消えていく。舌の上に残る酸っぱさが、のどを締めつける。糖分欲しさにストローの先を噛んだ。
「そういう態度が反抗していると言っているんだ」
そういうって、どういうの。
これ? ジュース飲むこと? 先生との話し中に飲むのはマナー違反だったか。欲望に忠実になりすぎてた。うっかりうっかり。
「ごめんなさい」
オレンジジュースの紙パックを背中に隠し、素直に謝る。先生は片方の眉を歪ませた。戸惑っているのが手に取るようにわかった。ごほんっ、と大きめにせき払いをして、調子を立て直そうとする。
わたしが謝ったことがそんなに意外だったの? わたしだって悪いと思ったことはちゃんと受け止めるし、ちゃんと謝れるよ。いくつだと思ってるの。高校1年生だよ。そこまでお子さまじゃない。