きみのひだまりになりたい
ふふふ、えへへ、とピースフルな世界にひたっているなか、小野寺くんだけはいまだふしぎそうにしていた。知恵の輪をうまく解けないみたいな小難しい顔をしている。何も事情を知らないのだから当然だ。
「田中、あいつと仲いいんだ?」
「ううん、今歩み寄ってるところ」
「歩み寄る?」
「そ。仲良くなりたいんだ」
もしかしたら、今もわたしは、ぎらついているのかもしれない。そう思うほどには好戦的に一笑した自覚がある。
仲良くなりたい人が、かたくなに壁を作るからいけないんだ。あきらめのわるいわたしには、逆効果であることを思い知らさなければいけない。突き進んで壁をぶち壊せるなら、ケンカのひとつやふたつくらいしてもいいとさえ思っている。ケンカするほど仲がいいってやつになれるかもしれないでしょ。
小野寺くんは意外だと言わんばかりに目を瞠った。思い出したように入部届を見つめる。
真新しかった用紙には、何重にも折り曲げられた線がくっきりとついていた。いちばん上に記入した自分の字を視線でなぞると、口角を軽く持ち上げた。
「じゃあ、おれと一緒だ」
「そうだね、一緒だ。同志だね」
「あっちから来てくれたら、いちばんなんだけどな」
「歩み寄っても逃げてっちゃうしね」
「なんだか猫みたい」
ひよりんのなにげない一言に、わたしと小野寺くんはうなずき合って笑った。木本くんの話題でこんなに盛り上がっていることを木本くんは知るよしもない。それが少しさびしい。