きみのひだまりになりたい


ぜんぶ知らないでしょう。

でもね、知らなくていいよ。


伝えたいことは、ひとつひとつ、伝えていく。




「おれは、独りがいいんだ」




ちっぽけな文句。ふた口目に噛んだ、生地の裂ける音に負けてもおかしくなかった。うつむきながらつぶやかれ、なおさら聞こえづらい。

聴覚にすぐれた耳を持っていてよかった。たやすくすくい上げられる。




「うそつき」


「っ、うそじゃ」


「ならどうして昨日、ちょっとだけだけど、一緒にご飯食べてくれたの? どうして拒むとき苦しそうにするの?」




あからさまな、拒絶。

それは真っ赤なうそ。



不愛想を決めこんで、独りでいいと自分に言い聞かせて。それのどこが「クールでかっこいい」のだろう。

わたしにはわからない。全然わかんないよ。小野寺くんにつかまっていたときも、今だって、こんなにも苦しそうにしているのに。


そのうそは、誰にも、木本くん自身にもやさしくないよ。




「何に悩んでるのか知らないけど、昨日ふたりで過ごした少しの時間だけでも、わたしがいやなわけじゃないんだなって気づけたよ」


「…………」


「仲良くなれる可能性があるってことでしょ?」




昨日のアメリカンドッグ、おいしくなかった?

わたしはとびきりおいしく感じるよ。



肯定も否定も返ってこなかった。木本くんは、力の入らない下唇をゆっくり引いていく。さっき、廊下でも黙っていた。それが答えだった。


< 43 / 158 >

この作品をシェア

pagetop