きみのひだまりになりたい
ぜんぶ知らないでしょう。
でもね、知らなくていいよ。
伝えたいことは、ひとつひとつ、伝えていく。
「おれは、独りがいいんだ」
ちっぽけな文句。ふた口目に噛んだ、生地の裂ける音に負けてもおかしくなかった。うつむきながらつぶやかれ、なおさら聞こえづらい。
聴覚にすぐれた耳を持っていてよかった。たやすくすくい上げられる。
「うそつき」
「っ、うそじゃ」
「ならどうして昨日、ちょっとだけだけど、一緒にご飯食べてくれたの? どうして拒むとき苦しそうにするの?」
あからさまな、拒絶。
それは真っ赤なうそ。
不愛想を決めこんで、独りでいいと自分に言い聞かせて。それのどこが「クールでかっこいい」のだろう。
わたしにはわからない。全然わかんないよ。小野寺くんにつかまっていたときも、今だって、こんなにも苦しそうにしているのに。
そのうそは、誰にも、木本くん自身にもやさしくないよ。
「何に悩んでるのか知らないけど、昨日ふたりで過ごした少しの時間だけでも、わたしがいやなわけじゃないんだなって気づけたよ」
「…………」
「仲良くなれる可能性があるってことでしょ?」
昨日のアメリカンドッグ、おいしくなかった?
わたしはとびきりおいしく感じるよ。
肯定も否定も返ってこなかった。木本くんは、力の入らない下唇をゆっくり引いていく。さっき、廊下でも黙っていた。それが答えだった。