きみのひだまりになりたい
熱の抜けたアメリカンドッグは、三口目から耳心地のいい音を立てなくなった。もぐもぐと口内を上下させる。味は変わらない。むしろ濃厚なケチャップが染み込んでさらにおいしくなった。続けて四口目をいただく。
のんきに食を味わい続けるわたしに、木本くんの毒気が癒えていく。おそるおそる、のどの奥から弱音をしぼり出した。
「……俺のせいで、やな思いとか、するかもしれねぇじゃん」
やっと届けてくれたと思ったら、なんだ、そんなこと。
「しないよ」
「……断言はできねぇだろ」
「しないって」
笑顔で即答。わたしはちゃんと口に出して答えを言う派です。
木本くんは「信じられない」と表情で物語る。
信じられないのなら、神さまにでも誓いましょうか。仏さま、閻魔さま、それでもだめなら二階堂先生に誓ったっていいよ。
「いいことはあっても、いやなことなんてない。もし、いやな思いをするとしたら、それは木本くんのせいじゃないよ」
「そんなのうそだ」
「言ったでしょ。わたし、自分に正直に生きるって決めてるって。うそなんかじゃないよ」
「何が起こるかわかんねぇだろ」
「まあ、それはそうだけど……。信じられないなら、むりに信じなくてもいいよ。だけど、そう決めつけないでほしいな」
壁は分厚い。透明なぶん、向こう側をクリアに展望できて、物理的に触れられる。それができるならなんてことない。痛くもかゆくもないって、きっとこういうこと。
ビニール袋に入れっぱなしにしていた紙パックを、壁の向こう側に手渡した。もうひとつのオレンジジュース。猫でいう猫じゃらし的なやつ。
ためらいがちに受け取ってくれた。一瞬わたしをチラ見してからストローを抜き取る。ストローの先端で穴を開けると、思いきって吸い上げた。きれいなみかん色がのぼっていく。
「それにしても」
「ん?」
「あんたのメシ、やばくね」
「やばいでしょ」
「太るぞ」
「太ると思わなければ太らないが、今日の合言葉なの」
「何だそれ」
きっかけがほしかった。
ずっと待っていた。
こんなふうにふつうに話せていることが、もう、わたしにとっていいことなんだよ。