きみのひだまりになりたい
教室の黒板もきれいに消した。がんばりすぎて、髪の毛とシャツがチョークまみれになって大変だった。
襟元だけ黒色のシャツはおろしたてだった。衣替え期間が明け、完全に夏仕様にシフトチェンジした制服を着込んできたとたんこの始末。この苦情もだいぶ寛容な表現で日誌の感想の欄に書いたはずだ。
二階堂先生のほうこそ、それなりに読んで、それなりにしか把握していない。わたしのがんばりも苦労も、おざなりな扱いを受けた気分。べつにほめてもらいたいわけではないけれど。
けど……けどさあ。
なんか。
ちょっと、なあ。
「勉強や仕事の出来はよくても、態度がそれじゃあ内申点はやれないぞ」
「内申を稼ごうだなんて考えていません」
「そうだろうな。でなきゃそんな派手な格好はしないだろう」
チョークの粉をかぶったシャツに視線を感じた。
派手、だろうか。自分でも見直してみるけれど、そういった感想はどうしても浮かんでこない。
丸みを帯びた黒色の襟。学校指定のベストの下からはみ出た半袖は、麻素材のアイボリー。ベストで隠れている胸ポケットには、黒の糸で刺繍がほどこされている。
これは派手というより、ナチュラルで大人っぽいカテゴリーに入りそうだけどなあ。世代とか価値観とかでずいぶん変わって見えるんだ。
「色味はひかえめにしたつもりなんですけどね……」
「色味がどうとかではない。校則に従い、一生徒として恥じない格好をしなさい」
「してますよ」
「わたしは真面目に言っているんだ」
「わたしだって真面目です」