きみのひだまりになりたい


自分らしく在ることが、ときに強さに、ときに弱さになること。


みんなと同じ生き方が、最適なときもあること。

みんなとちがうことが、苦しさになりうること。


確固たる集団意識は、学校と生徒を守るためであることも。



そう、わかっているから、先生は何度も警告する。生徒をどうでもいいと思っていたらできないことだ。先ほども二階堂先生なりの愛情を持って、わたしと向き合っていた。


先生の考えも一理ある。わたしにもわかるよ。わかっているけど……。


でも。でもね。

それでも、わたし。


自分をいつわって、つらい思いをするのはいやなの。



――もう、できないの。




「わかっているからこそ……ゆずれないんです」




これはいわゆる意見の相違。よくバンドの解散に起因する、方向性のちがいのようなもの。理解と尊重はできても、妥協はできない。


そこで線を引かず、向き合おうとする二階堂先生は、鋼のメンタルの持ち主にちがいない。そっちがその気なら、わたしも、誠意には誠意で返す。


顔を合わせて、言い合って。

ただ、時間をむだに長引かせるのは、先生のわるい癖。時は金なり。わたしは折を見て、妥協しないと言い逃げするまでがワンセットだ。




「そう……、そうですか。いらぬ心配でしたかね」


「いえ……。ありがとうございます、教頭先生。さようなら」


「引き止めてすみませんでしたね。さようなら。気をつけて帰るんですよ」


「はーい!」




にこやかに返事をし、軽い足取りで昇降口へ歩いていく。教頭はメガネをかけ直し、わたしの背中をしばらく眺めると、おもむろに職員室の扉を開けた。隙間からかすかにコーヒーの残り香が吹き抜けた。


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