きみのひだまりになりたい


木本くんの視線をなぞる。その先は、グラウンドの奥に固定されていた。念のためもう一度確認するが、終着点は同じ。野球部の練習風景に目が釘付けになっている。


カン、と金属音が響いた。野球部のコーチが、本日何十球目かのボールを打った。カーブを描くことなく、ボールは地面に平行するように低く飛んでいく。



木本くんは気をもんでいた。顔の中心にぐっと力がこもる。



パシ、と乾いた音が響いた。使い古されたグローブに、ボールが納まっていた。捕ったのは、小野寺くんだ。茜色の日差しを一身に受け、泥でにごった汗がきれいに光る。


前方にたたずむ、彫刻さながらの横顔が、やわくほぐれていった。唇はたしかに弧を描き、青臭い英姿をほこらしげに見つめている。



木本くん、もしかして……。



思わずわたしは笑みをもらす。それに気づき、木本くんの視線がうしろに向けられた。にやけるわたしを黒い瞳が捉えるやいなや、するどく吊り上がっていった。


一も二もなく逸らされた。木本くんはズボンのポケットに手をつっこみ、早歩きで立ち去ろうとする。




「あ、待ってよ、木本くん!」




わたしは駆け足で追いかけた。許可を得ることなく、隣に並ぶ。仏頂面を覗いてみたら、ふいとそっぽを向かれた。

ちょうど木本くんの耳が目に留まった。夕焼けを淡くうすめた彩りをしていて、またにやけてしまう。




「野球部、気になってたんだ?」


「……うざ」


「もしかして、たまに野球部見てたりする?」


「……別に。ちげえし。たまたまだし」


「たまたま、か。そっかあ」


「……あんたこそ、こんな時間まで何してたんだよ」


「わたしは日直。木本くんも遅くまで残ってたんだね?」


「……おれ、は……」




野球部のほうを一瞥した木本くんは、気まずそうにうつむいた。おおよそ、また野球部に勧誘されたとか、小野寺くんと話していたとか、そのへんだろうか。


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