きみのひだまりになりたい


野球部を見据える木本くんは、とてもやさしい表情をしていた。なつかしさにくらみ、いとしさをたたえていた。一目見ただけでも、野球が好きなんだとありあまるほど伝わってくる。


その思いを小野寺くんも知っているから、遠ざかろうとする木本くんを、必死になってつなぎとめようとしている。


それでも、きっと。




「逃げてたの?」


「っ、」




伸ばした手は、つながらない。


虚を衝かれたように木本くんの肩が震えた。おそれをにじませた目つきで、わたしをねめつける。微動だにせず真っ直ぐ見つめ返せば、木本くんはいたたまれずにまぶたを伏せた。長い足で石ころを蹴飛ばす。




「ああ、そうだよ。おれはずっと、逃げてる」




ちっぽけな石が、ぽちゃんと下水道に落っこちた。


投げやりな口ぶりだった。

安心感をおぼえた。うれしさを隠しきれずにほころんでいく。木本くんは気に食わなそうに顔をしかめた。



あの木本くんが、応えた。

ごまかさなかった。


届けてくれた。


どんな思いで、どんな伝え方だろうと、うれしかった。だって、それが何であろうと、ずっと聴きたかった本心でしょう?




「逃げられるうちはいいよ。でも……逃げきれなくなったら、わたしのところにおいで」


「え……?」


「ひだまりになってあげる」


「は? ひだまり?」


「そ。居場所になるよ。ぎゅうっと抱きしめてあげる」


「い、いらねぇよ!」


「あはは。照れなくていいよ」


「照れてねぇ!」



< 55 / 158 >

この作品をシェア

pagetop