きみのひだまりになりたい
野球部を見据える木本くんは、とてもやさしい表情をしていた。なつかしさにくらみ、いとしさをたたえていた。一目見ただけでも、野球が好きなんだとありあまるほど伝わってくる。
その思いを小野寺くんも知っているから、遠ざかろうとする木本くんを、必死になってつなぎとめようとしている。
それでも、きっと。
「逃げてたの?」
「っ、」
伸ばした手は、つながらない。
虚を衝かれたように木本くんの肩が震えた。おそれをにじませた目つきで、わたしをねめつける。微動だにせず真っ直ぐ見つめ返せば、木本くんはいたたまれずにまぶたを伏せた。長い足で石ころを蹴飛ばす。
「ああ、そうだよ。おれはずっと、逃げてる」
ちっぽけな石が、ぽちゃんと下水道に落っこちた。
投げやりな口ぶりだった。
安心感をおぼえた。うれしさを隠しきれずにほころんでいく。木本くんは気に食わなそうに顔をしかめた。
あの木本くんが、応えた。
ごまかさなかった。
届けてくれた。
どんな思いで、どんな伝え方だろうと、うれしかった。だって、それが何であろうと、ずっと聴きたかった本心でしょう?
「逃げられるうちはいいよ。でも……逃げきれなくなったら、わたしのところにおいで」
「え……?」
「ひだまりになってあげる」
「は? ひだまり?」
「そ。居場所になるよ。ぎゅうっと抱きしめてあげる」
「い、いらねぇよ!」
「あはは。照れなくていいよ」
「照れてねぇ!」