きみのひだまりになりたい


あ、からかってると思ってるでしょ。

ちがうよ。わたしのこれも本心だよ。


木本くんはわけもなく好きなものを捨てる人じゃない。何かあったんだ。捨てざるを得なくなるほどの何かが。



――『あれはおまえのせいじゃねぇって、何度言やわかんだ』



本来ならば苦しくならなくてもいいはずの、何かに、今もなお苦しんでいる。


好きなものを遠くからでしか眺められない。独りを選び、逃げ続ける。自分自身にうそをついてでも。



逃げて、逃げて、逃げて……

逃げることに疲れてきたとき。


わたしを逃げ場にしてほしい。大丈夫。屋上のように温かく迎え、東屋のように落ち着いてひと休みできる場所になるよ。



わたしが、いるよ。





「……あ、ここ……」




学校から離れ、小道を抜けた。木本くんとは帰り道が同じだったようで、小山の近くまで来ていた。山のふもとにかまえられた鳥居を前に、横のローファーが止まった。


鳥居から石畳の道が続いている。その奥には古びた神社が建つ。神社の脇に伸びた道を行くと、石畳の階段がある。そこをのぼった先が、わたしの目的地である東屋だ。


この辺りは電灯のひとつもなく、日が沈むと真っ暗になる。夕闇が迫っている現在時刻は、夕焼けの迫力が増し、明るすぎるくらいだ。




「ここ、よく来るんだ」


「……そう。よく、来るんだ……」




独白めいたつぶやきを噛みしめる。複雑な感情に駆られる。


よく、来るのなら。

それなら……!


訊くなら今だと思い立ち、感情を丸ごと問いかけに示した。のどが震える。




「ね、ねぇ、山の中にある、あずま……」



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