きみのひだまりになりたい
「そんでさー」
「ははっ!」
「まじかよ」
東屋という単語ひとつ言い切れなかった。木本くんはわたしの声を聞いていない。小道に入っていく男子高生たちに、全神経を持っていかれている。
男子高生たちは近くの私立高校の制服を着ていた。肩には、大きめのエナメルバッグ。パンパンに詰まったバッグのチャックから、ユニフォームらしき袖がだらんと出ていた。
彼らから顔を背け、木本くんは身を縮こませる。楽しげな会話が遠ざかっていく。完全に聞こえなくなると、ようやっと木本くんは肩の力を抜いた。
「知り合い?」
「……元、チームメイト」
中学のころの。
小野寺くんと同じ、仲間だった人たち。
そのことも気になるけれど、今はそれよりも、木本くんが心配でたまらない。
葛藤を押し殺す、その背中にそうっと触れた。びくりと反ったが、拒まれはしなかった。夏の暑さのせいにでもできそうな荒れた息づかいを感じた。やさしくさすり、動揺を鎮めていく。
黒のベストがなかったら、温度も鼓動もすべて、手のひらを伝って感じ取れたのだろうか。
「……もう、いい」
か弱げに言うと、これまたか弱げにわたしの手を払った。木本くんはゆっくりと体の向きを変え、鳥居に背をつける。前髪でいともたやすく顔の上半分を陰らせた。きれいな瞳が輝かない。
平気だとは言わないんだね。