きみのひだまりになりたい
木本くん。木本くん。
仲良くなりたいんだって。
みんな、独りにさせたくないんだよ。
木本くん。
みんなの気持ちに、気づいてる?
わたしの気持ちにも気づいて。
「――あ、」
廊下の突き当たりから、ぺらぺらな靴音がやけに耳孔を叩いた。女子ふたりのちょうど真ん中に、黒のベストを視界に捉える。
今どんな表情をしているのか、遠くてはっきりとは見えない。それでも誰なのかを当てるには、十分な距離だった。
どれほど離れていたってわかるよ。会いたかったんだもん。
彼が、来た。
わたしの待ち人。
数拍遅れて、女子ふたりもうしろを振り返った。黒のベスト、整った色白な顔、ダークブラウンの短髪。徐々にのぼっていった視線を、ふたり同時にお互いの上履きへ転がした。
「えっ。木本くん? あれ、木本くん!?」
「そうだよ! 現実逃避やめよ!」
「ど、どど、どうしよううう! 本人来ちゃったよ!」
「作戦失敗!」
「本人の前で聞けないし」
「木本くんに聞くのも無理」
仲良くなれるアドバイスどころではなくなった。
再び、赤色ラインの入った靴が、音を鳴らし始める。何を思ってか、木本くんがこちらに近づいてきた。こちら方面に何か用事でもあるのだろうか。しかし方向は明らかに、廊下の脇に固まっているわたしたちのいるところだ。
さらに女子ふたりはうろたえる。会話を聞かれていないのに、「聞かれた!?」「うざがられる!?」と要らぬ心配をしている。