きみのひだまりになりたい
木本くんが接近するにつれて、表情が見えてきた。なぜか仏頂面。女子ふたりが取り越し苦労するだけある。あれでは機嫌を損ねたのではないかと不安になる。
本当に会話が聞こえたの? いやいや、まさか。超のつく地獄耳じゃあるまいし。万が一聞こえたとしても、仏頂面になる内容じゃなかった。だったら、どうして。
木本くんがやきもきしてる理由が、見当たらない。
「き、きもと、く……」
「…………」
「え、あ、ちょっ」
一週間ぶりに目が合った――のもつかの間、すっと真横に通り過ぎる。わざわざ女子ふたりの間に割って入り、足を止めずに歩いていく。
わたしを横切ったタイミングで、オレンジジュースを持っているほうの手首をつかまれた。目を逸らした方向にわたしを引っ張っていく。
「木本くん……!?」
呆然とした女子ふたりを置いてけぼりにし、木本くんは黙々と階段を上がっていった。わたしの手首をつかんだまま。
な、何が、どうなっているの。
なんで連れ去られているの。
木本くんの歩く速度が速い。手首をつかむ力は強い。1週間わたしを放置していたとは考えられないくらい、距離を近くして、我が物顔で触れてくる。
紙パックのオレンジジュースをえさにつられたんじゃないってことは、わかるよ。