きみのひだまりになりたい


鳥居を通り抜けると、お祭りごと特有の空気感に包まれる。鳥居を境目に、世界がまるでちがう。

暗がりになじむ温かな光に、数多くのシルエットが伸びる。胸おどる祭りばやしに急かされるように、歩きづらい下駄でもついついアップテンポのリズムを取ってしまう。




「んな急いでっと転ぶぞ」


「ダイジョーブ、だいじょー……うわっ」


「ほらな」




未来を予知していたかのように、注意されてすぐ石につまづいた。木本くんが瞬時にわたしの右うでを支えてくれたおかげで、間一髪転ばずに済んだ。危うくせっかくのおしゃれが水の泡になるところだった。

反省、反省。浮き足立ってました。気をつけます。


歩くテンポを遅くすると、サイズの大きいスニーカーも歩幅を合わせてくれる。隣り合った呼吸がとても心地よい。




「あ、ねえあそこ、アメリカンドッグだって!」


「ふーん」


「わたしたちの思い出の品だね!」


「思い出……? なんだそれ、初耳だけど」


「え!?」


「え?」




初めてお昼ごはんを食べたときのことをこと細かに語れば、木本くんは「あー……」と微妙なあいづちを打つ。そのリアクションが不服で、思い出の味をよみがえらすべく、夏祭り最初の一品はアメリカンドッグに決めた。


あー、じゃないよもう。わたしには大事な大事な思い出の一部なのに。木本くんが食べていたアメリカンドッグがあまりにおいしそうだったから、購買という名の激戦に乗りこんだんだよ。戦利品のアメリカンドッグは、一二を争う美味だったなあ。


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