きみのひだまりになりたい



「もうすぐ大会が始まるね」


「…………」


「まだ練習してるのかな」


「……さすがに帰ってるだろ」


「かな? ……夏休みもがんばってるよね」


「…………」


「がんばってほしいね」


「……、おう」




夏が、始まった。

野球部は来週に初戦があるらしく、夏休みも練習漬けの日々を送っている。学校の近くを通りかかるたび、野球部のかけ声が地響きのごとくこだまし、圧倒されていた。


待っている、と。
宣言したあの言葉を、うそにしない。そんな気迫をひしひしと感じ、言霊になればいいと本気で思った。




「おや、田中さんと木本くんではないですか」




アメリカンドッグをぺろりと平らげ、次の目当てをしぼりこんでいると、通りすがった白いテントの下で、教頭がパイプ椅子に座っていた。わたしたちに気づき、緑茶の入った湯飲みをことりと置く。

長テーブルは、和紙で作られた円状の明かりで飾られていた。その近くには、学校名と出店の一覧表が寝そべっていた。




「お久しぶりですね。お元気ですか?」


「え、あ……き、教頭先生お久しぶりです! 元気です!」


「そうですかそうですか。それはよかったです。夏祭りはどうですか? 楽しんでいますか?」


「はい、それはもう、すごく」


「そうですかそうですか。それは何よりです。木本くんはどうですか?」


「……まあ、はい」


「そうですか」



< 84 / 158 >

この作品をシェア

pagetop