きみのひだまりになりたい
いい表情、か……。
おだやかな声色とは裏腹に、そのきれいな顔に愛想はない。だけど教頭の心眼には、声色と同じ表情に見えているのだろうか。よくよく見れば、まあ、たしかに、やわらかくなったと言えなくもない。
凝視しすぎていたら、見すぎだこら、と凄まれた。ひどい。
ずっと近くにいすぎて、マヒしてきたのかもしれない。今さら離れたいとも思わないけれど。
「――……まひるちゃん?」
ぴちゃんっ、と水のはねた音が、した。
「あ、やっぱり。まひるちゃんだ」
「……結月、ちゃん……?」
「わあ、すごい偶然!」
あと4人、3人と効率よく進んでいた列が、止められた。ほかでもない、わたしによって。
び……っくりした。教頭と出くわしたときとは比べものにならないくらい、いいや、もはや別物の衝撃だ。びっくりしすぎて心臓が止まるかと思った。でも大丈夫、ドキ、ドキ、ドキ、と今は至ってゆるやかにはずんでる。
……結月ちゃんだ。
金魚の泳ぐビニールの袋をたずさえて、パステルピンクの浴衣をまとって。でも……うん、わたしの知る、結月ちゃんだ。
「知り合いか?」
「う、うん。そう」
「あ、ごめん。もしかしておじゃましちゃったかな?」
「え、ううん。全然」
右上を向いて首を縦に振り、左下を向いて首を横に振った。うしろからは、早く進めよ、とやじが飛ぶ。ちなみに前方には、糖度と油に占拠された胃を刺激する飯テロ。ああ、忙しい。