きみのひだまりになりたい
ほうほう、そうですか、そうですか。なんて、教頭のあいづちの仕方を真似てみる。
わたしとは対照的に、結月ちゃんの中学生活は恋に愛にあふれていた。主に、好意をもらう側で。
どんなイケメンに告白されてもかたくなに断り続けた遍歴を持つ彼女は、一体どんな人を好きになったんだろう。きっとすてきな人なんだろうな。
恋をするとかわいくなるとよく言うが、まさしくそのとおりだ。久しぶりに会った結月ちゃんは、昔と段違いにかわいくなった。
ナチュラルにメイクをほどこし、髪の毛は編み込みのアレンジをしている。そういう外見のかわいさもそうだけれど、顔つきも雰囲気もどこかオトナになったような感じがする。
「かわいいなあ、」
……あ。かわいさのあまり、心の声がぽろっと。
「まひるちゃんもかわいいよ」
「ええ?」
「あ、信じてないでしょ。本当だよ。かわいい。とってもかわいい。その浴衣、似合ってるよ」
ほがらかに細められたその目に、梅の花が絡まる。ここは暗くてきれいに咲き誇れない。花弁の色は褪せ、夕空はくもってしまった。それでもかわいいと、似合ってると、伝えてくれた言葉はお世辞ではない。
その目が、しかと語っていた。
『まひるちゃんは紺色が似合うと思うなあ。これとかどう?』
『わ……かわいい、ね』
『あたしはこっちのピンクで、おそろい!』
ショーウィンドウのマネキンを見比べっこした帰り道。にこいちで並ぶ、紺とピンクの浴衣。右がわたしで、左が結月ちゃん。そのイメージを壊さないよう、仲間はずれにされていた橙色は、見なかったふりをした。
紺色もかわいかった。きらいじゃなかった。……好きでもなかった。
ただそれだけのことだった。