きみのひだまりになりたい
わたしの言葉は何ひとつ届いていなかった?
本当に?
カランコロンと下駄が歌う。密度の高い人だかりを抜け、石畳の階段をのぼっていく。比較的サイズの小さな花火が連続で打ち上がり、足元を燦然と照らす。まばゆい火の粉をかぶった木々が、そよそよと揺らめいた。
頂上にぽつんと建つ、秘密基地。普段なら無人であるそこに、細い影が差す。ついでに濃厚なソースの匂いも。
「木本くん」
「っ! ……な、」
なんで。そう言いたそうに木本くんは目を丸くした。建付けのわるいベンチに座り、ひざを抱えて丸くなっている。いつものわたしとそっくりだ。テーブルに放置された焼きそばは、まだ湯気が立っている。
この東屋に行きつくことはわかっていた。逃げた方角から考えても、ここしかなかった。独りきりになれる場所は。
ジレンマに駆られながら一歩ずつ歩み寄る。たった三歩で埋まった距離のどこかに、きっと目には見えない壁が作られていた。でもごめんね、そんなもの、はなっから気にしないことにしているんだ。
真正面から直視する木本くんの顔は、もっとひどいもので。これっぽっちもきれいじゃなかった。
震え惑う瞳孔。湿った下まつ毛の生え際。不規則に二酸化炭素を吐く、開いた唇。三原色の花火に濡れた、真っ白な肌。
そのすべてに、こらきれない苦痛をにじませていた。取り繕う余裕すらない。明らかにいつもと様子がちがった。
そっと手を伸ばした。強張った頬に手のひらをすり寄せる。冷たい静電気が走る。心臓にまで伝わり、痛々しくしびれた。